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森のフォーラム

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りんご
みなみ
[ID:megalomania0]
 一本の大きな大木に林檎が一つ実っている。僕はこの林檎の事を毎日眺めている。下から眺められる事に林檎は少し抵抗がある様で、顔を真っ赤にしている様子が可愛かった。毎日僕はこの大木に水と肥料を持ってくる。そのお蔭か、初めは小学生位だった林檎も、今は立派な女の子だ。雨の日も風の日も、台風が来た日だって僕は林檎の傍を離れなかった。もし僕が離れている間に地面に落ちてしまったら、林檎は猫や虫に食べられてしまうかもしれない。ただでさえ毎日、林檎に近付く虫を払うのにも苦労するのだから。
 雨が降ると林檎は、未成熟で艶やかな体を打つ水を、気持ちよさそうに受け止める。根から吸収した水分を体へと送り込み、より肌を瑞々しくさせる。太陽の光を受け、少し肌を焼きながら、のびのびと光合成をする。温かい日差しについつい僕まで眠ってしまいそうだ。僕が眠ってしまうと、そんな林檎の可愛い寝顔を見る事が出来なくなる。酸素を取り込んだ葉は、木の枝を伝い、林檎の隅々まで新鮮な空気を浸透させる。ゆっくりと深呼吸しながら、体に行渡る酸素を十分に味わい、頬を少しだけ赤くさせる。
 僕は林檎の事を愛している。林檎も僕の事を愛してくれている。今はまだ林檎は木の枝に実っている状態だから、キスも何も出来ないけれど、林檎との会話だけでも、僕は十分に満足できる。
 林檎の体が赤い。そろそろ熟しきる頃だ。成熟した林檎は自ら地面へと降り立つ。木の枝を離れ地面に足を付けるのだ。もうそろそろ林檎が落ちるかと思ったときに、虫達はやって来た。奴らは林檎を囲む様にして、じっと落ちてくるのを待っている。僕は必死で虫達を払いのけ、林檎に近づけさせないように、する。林檎も不安な眼をして、僕を見ている。
 虫達はしぶとくも林檎に近づいていく。中には数匹、林檎の体に付いた奴もいたけれど、僕は林檎の悲鳴を聞いて直ぐにそいつらを払いのける。木の葉はざわめき、まるで怯えて泣いている様でもあった。彼女は手をぎゅっと握り締め、瞼をしっかりと閉じている。唇も内側から噛み押さえている様で、酷く辛そうだった。
 僕は必死になって虫達を払いのけていた。そうして、何百匹と言う虫達を払いのけた後に、そいつらの親玉とも思われる虫が現れた。僕のような人間くらいの大きさの、ジガバチの様な奴だ。巨大な蜂は僕に向かって尻の針を向けてきた。針は気味悪く脈打ち、先から透明度の高い青白い液体を垂らしている。
 僕は本能的に勝てないと思った。
 すると、後ろの方から物音が聞こえた。見ると林檎は自らの足で地面に立っていた。成熟した体に、ほんのりと赤い肌。きめ細かい長い髪に、降り注ぐ雨粒よりも儚い瞳。砂糖菓子の様に繊細で、宝石の様に美しい林檎が木の枝から離れ、地面に降り立った。
 僕は直ぐに林檎に駆け寄り、彼女の肌に触れる。初めて触れた林檎の肌は瑞々しく、柔らかくて、日の光を一杯に凝縮したみたいに、温かかい。彼女の姿を見た虫達は、皆見とれてしまった様で、食べる事を諦め、来た道を戻っていく。僕は林檎のと手をそっと握ると、林檎の脈が静かに伝わってきた。それはとても心地よく、心休まる。今まで林檎を見てきた疲れが出たのか、僕は足元から崩れ落ちた。倒れた僕の横に林檎はそっと横になり、僕の頬に手を添えた。真っ青でどこまでも広がる空の下で、林檎は光合成ではなく、自分の口で、自分の肺を使って初めて大きな呼吸をする。葉から取り入れる酸素ではなく、自分で直接肺に送り込まれた酸素を、林檎はゆっくりと吐き出した。
 僕はゆっくりと眼をつぶる。僕と林檎は、そっと、眠りに付く。

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