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森のフォーラム

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Re:短編小説
椎藍
[ID:rio0625]
届かないもどかしさは苦しみに近いものがある。届かないのであればあきらめてしまえばいいものを、あともう少し手を伸ばせば届くのではないかなんて淡い期待を抱いて、しかしその手は虚空を掴むばかりで何も得られない。学習しろよ。そう何もない掌を眺めて自傷的に笑うのは、もう何度も行われた光景だ。それでもやはり手を伸ばすのは、学習能力がないからか。否、あるにはあるが、届かないその事実を認めたくないからだ。
彼女は俺に気付かない。同じ教室という空間にいる俺の感情に気付かない。言葉を交わす機会なんて週に一度あれば多いほうだ。目の前を通り過ぎて行く彼女を見て、声をかけようと手を伸ばす。
「―――」
声は出なかった。出るはずもなかった。伸ばした手も自然と机の上に戻ってきた。女々しく重いと自覚している。それでも視線が追ってしまうのは仕方のないことだろう。声をかける勇気がないのではない。声をかけて、何を話せばいいのか。それが分からない。知りたいことはたくさんあるが、自分はそれほどがっつく性格ではなく、なぜか彼女の前に立つといつもの余裕が持てなくなる。だから遠巻きに、遠巻きに、眺めてしまう。これを臆病者と人は言うのだろうか。孤高を気取った狼が、どもってしまえば笑いの種になるだろう。俺はまだ、自分のプライドを投げ捨てられるほど強くはないのだ。
これを愛というのなら、なんて残酷なものだろうか。
これを恋というのなら、なんて無様なものだろうか。
まるで彼女を愛するなと、そう警告するように。それでも視線はやはりぐるりぐるりと回って彼女へ。彼女はいつの間にか俺の前の席に座ると、次の授業の準備をする。彼女の体が動くたびに、彼女の髪が肩から滑り落ち、左右に流れる。
俺はもう一度、静かに手を伸ばす。比喩的にも現実的にも。しかし途端に鳴った予鈴により、移動教室のために彼女は立ちあがる。そしてやはり、俺の手は彼女に届く前に虚空を掴む。流れる髪に触れることさえできない。俺は掴んだ掌を開く。開いて、いつもと同じように何もないことを確認して双眸を細める。
「武田、行くぞ」
友人の呼び掛けに応じて、俺は静かに立ちあがると、他の人たちを追うように友人と教室を出る。結局俺は何もできず、何も起こせない。だから苦しくて、辛い。息が詰まってしまいそうなほど苦しくて。
きっと人は、人を愛しすぎて死ぬことができるだろう。



以前、心の名前で投稿させていただきました、椎藍です。
今回で二度目の投稿になります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。失礼します。

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